男もつらい:背景に家計責任?

日本の男性は大変です。

会社では「もっと働け」プレッシャー、家に帰ると妻から「もっと稼げ」プレッシャー。

 

背景には、男性に一方的に偏った家計責任があります。

大黒柱が自分だけだと、男性もこれらのプレッシャーにあらがいきれません。

ですから、「女性の社会進出」は、女性のためだけのものではなく、男性にとっても福音です(詳しくはコチラ「男もつらいよ:もっと働け、もっと稼げの重圧)。

 

女性の「社会進出」と男性の「家庭進出」はセットでないと

賃金がなかなか上昇しない時代、自身の賃金の低さをカバーするには、妻にも安定した働き方をしてもらうことで家計収入の道を多角化する以外ほかに道はないはずだからです。

家計を支える柱は一本より二本のほうがずっと安心です。

 

ただ、ここで強調しておきたいのは、女性の「社会進出」は、男性の「家庭進出」とセットであるべきという

ことです。

そうでないと、家庭生活が回らなくなります。

夫婦関係も破綻しかねません(<詳しくはコチラ「産後クライシス」

 

男性がこの点を自覚していないと、女性は「仕事」と「家事育児」のダブルワークにより過労でダウン。仕事を辞めざるを得なくなります。

 

男性の「家庭進出」の実態は?

男性の「家庭進出」の実態はどのようなものでしょうか。

残念ながら、「男性の家庭進出」は女性の社会進出ほどには進んでいません。

下記の図は、<6歳未満の子どものいる家庭での夫の一日の家事時間の国際比較>です。

 

 

6歳未満の子どもといえば、子育て負担が最も大きく、夫の助けをもっとも必要とする時期です。

しかし、日本の父親の家事時間は1時間で、うち育児時間は33分にすぎません。

一方、米、ドイツ、スウェーデン、ノルウェーなどの夫の家事時間が3時間を超え、育児時間が1時間近くです。

ざっくり比較して、これらの国々の父親に比べて、日本の父親は育児は半分、家事に至っては3分の1しかやっていません。

 

男性だって極限まで頑張っています

しかし、だからといって「日本の男性は育児に理解がない」などと決めつけるのは乱暴だと思います。

 

実は、日本の男性は世界的にも突出して長時間、仕事をしているからです。

それに加えて、家事も1時間近くしている。

つまり、世界でトップレベルの働き者なのです。

 

その様子を詳しくみてみましょう。

※作成中。図2(「ルポ父親たちの葛藤」p36)は、世界各国の男性の家事時間に仕事時間を積み上げたものです。

まず、OECD(経済協力開発機構)加盟国26か国の平均を見てみましょう。

男性の仕事時間は1日あたり平均328分、家事時間が1日あたり138分、合わせて466分。

 

一方、日本の男性の仕事時間は471分、家事時間は62分、合わせて533分です。

つまり、日本の男性は先進諸国の平均的な男性の仕事と家事の合計時間よりも長く働き、さらにそのうえ62時間の家事を毎日行っているのです。

 

この調査をみるかぎり、日本の男性はたしかに家事・育児時間は少ないものの、外での仕事を含めてトータルみると、極限まで頑張っているのです。

 

「イクメン」になりたいと思っている男性は多い

ところで、2010年には「イクメン」という言葉が流行語大賞に輝きました。

女性誌を中心に、バリバリ仕事をこなすけれど早めに家に帰ってきて、家事も育児もこなしてしまう「理想の父親像」がもてはやされました。

この言葉の流行の背景には、妻・母親たちの強い羨望・願望があるのは確かですが、男性たち自身の意識の変化を読み取ることもできます。

 

実際、「家事育児に今まで以上にかかわりたい」と思う父親の割合は増加しています。

にもかかわらず、「実際に父親がかかわってる家事・育児」の実態に関しては、状況はほとんど改善していません。

それどころが後退さえしています。

男性の育児休暇取得率もほとんど増えていません。

 

それにしても、イクメン男性が社会的に好意的に受け止められ、父親たち自身も「家事育児に今まで以上にかかわりたい」と思っている。にもかかわらず、なぜ、男性の「家庭進出」は進まないのでしょうか。

 

“ブラックハズバンド”といって責めるだけでは

実は、妻が目の前にいる夫を“家事育児をしないブラックハズバンド”といって責めるだけでは解決しない根深い問題が横たわっています。

 

その問題とは、日本の雇用環境、特に企業の「高拘束」の問題です。

日本の会社員は、時間的、物理的、心理的に会社にがんじがらめにされています。

 

時間的拘束; 仕事が終わらないので長時間勤務、休日出勤をせざるを得ない

物理的拘束; 転勤命令が下ると、国内外の任地に転居せざるをえない

心理的拘束; 権利であるはずの有給休暇、育児休暇、介護休暇などがとりにくい

 

「高拘束」の魔法

このような二重、三重の拘束状態に陥っている社員は、かつて「企業戦士」「猛烈サラリーマン」と呼ばれていました。

いまは、なんと「社畜」なんてひどい呼び名がつけられています。

 

仕事という“錦の御旗”のもと、たとえ火の中、風の中。

男性の「家庭進出」がなかなか進まないことの要因の1つには、このような企業の「高拘束」の問題があります。

 

では、「高拘束」の魔法は、どうしたら解けるのでしょうか。

この問題については、<男もつらいよ;「もっと働け」「もっと稼げ」の重圧>で見ていきます。

 

【参考文献】

おおたとしまさ 2016 ルポ父親たちの葛藤 PHPビジネス新書