なぜ、「3年間抱っこし放題」?
2013年4月、安部首相は、アベノミクスの成長戦略の一環として「3年間抱っこ し放題!」と高らかに宣言しました。しかし各方面からの批判を受け、結局、日 の目をみませんでした。 それにしても一体なぜ3年だったのでしょうか? この法案の背景には「3歳児神話」の存在が見え隠れします。 「3歳児神話」とは、子どもが3歳になるまでは母親が子育てに専念すべき、そうでないと成長に悪影響が及ぶという考え方です。はたして、本当なのでしょうか? この記事では、「3歳児神話」が日本で広く信じられるようになった経緯とその真偽を見てみたいと思います。「三歳児神話」:そもそもの始まりは?
そもそも「3歳児神話」のきっかけは、第二次世界大戦によって親を失った子どもが急増し、その対応が世界的な課題になったことによります。 戦後ほどない1951年、事態を重くみた世界保健機構(WHO)は施設に収容されている孤児たちの状態を調べるよう、当時イギリスで著名だった精神医学者ジョン・ボウルビィに依頼しました。下記は、このときの調査結果をまとめた報告書の一部です。 “・・・乳幼児と母親との人間関係が、親密かつ継続的で、しかも両者が満足と幸福感に満たされるような状態が性格発達や精神衛生の基礎である・・・” ボウルビィは施設児にはこのような望ましい母子関係が欠けていること(母性剥奪)が心身の発達障害を引き起こしていると考えました。 その後、ボウルビィはこの時の調査研究をもとに、「愛着理論」を提唱します。 この理論は、母と子の絆が強く結ばれ、母親に対する愛着がしっかり築かれたとき、その愛着を「安全の基地」として子どもはさまざまな困難や課題に対処でき、情緒的にも安定した人へと成長するという考え方です。つまり、彼は母子の絆はその後の人格的社会的発達の原型となるという考え方です。 この理論は、保健医療や福祉の現場に大きな影響を与え、ひたすら母子関係の重要性が強調されるようになりました。特に、日本では研究の域を越えて一般化され、子育ては「女性の仕事」、なにものにも換えがたい重要な仕事である、子どもが小さい間は母親が専業で育てるのが一番だという考え方として普及していきます。これが、いわゆる「3歳児神話」です。日本に特徴的なM字型就労パターンの一因に
近年、世界の先進国諸国では女性の年齢別就労率曲線が台形カーブを描きます。しかし、日本では女性の出産年齢である20代後半~30代にかけて落ち込むM字カーブを描きます。 http://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h29/zentai/html/honpen/b1_s02_01.htm第1子の出産後に就労を断念する女性の比率が約6割に及びます。この年齢層で日本の女性の就労率が下がる背景には、家事・育児の両立の難しさ、保育所に入れないなど、外的な制約があります。 しかし、それよりもなによりもこの時期、仕事を辞める女性が多いことに背景に、「3歳児神話」の影響は否定できません。母親が育児に専念せず、人任せにするのはよくない、子どもにマイナスだという非難や懸念、母親自身の罪悪感などの心理的障壁が大きいためであると考えられます。 朝日新聞が行った世論調査でも、「子どもが幼いうちは、母親が家で面倒を見る方がよい」に「そう思う」と回答した人の比率は63%に上りました(2019・1・13朝刊) “/> < div style=”float:left; margin: 20px”> “/> 筆者も例外ではありませんでした。ずっと働き続けたいと思っていたにもかかわらず、第一子が8か月のとき病気になったのをきっかけに、急に「3歳児神話」の魔法にかかります。「そこまでしてやる仕事か?!」と悩み、結局、(一時期)仕事を辞める道を選びました。 この心理的障壁を乗り越えてワーママの道を選んだ女性たちにとっても、仕事を続ける道も茨の道。育児休業が明けて職場に復帰しても、専業主婦だった実母や義母からは「保育園なんてかわいそう」。ときに、「子どもを犠牲にして」とまで言われることも。