この記事では、妻たちの夫に対する要求が矛盾していることを取り上げたいと思います。
これってずるいんじゃない?!
たった一人で孤軍奮闘、日々24時間365日で子育てに励んでいる妻。
「どうして私ばっかり?!」
「これってずるいんじゃない?!」
夫への不満がいまにも爆発しそうな毎日です。
これらの爆発しそうな不満の原因の1つは、日本の男性たちがほとんど家事をやらないこと(家事全体の1割程度)にあります。
その1割にしたって、子どものお手伝い程度の補助的家事だったり、家族のイベント的家事だったりするのがその特徴です。
たとえば、「ゴミ出し」ならぬ「ゴミ運び」だったり、気が向いたときに高級食材を使って作る「パパ特製シーフードパスタ」だったり・・・。
掃除、洗濯、食事の支度などのメジャーな家事、これをやらなければ生活が回らないという家事にはほとんどタッチしていません。
<図2;夫がやる家事項目 グラフ><イラスト> ゴミ出しをしている夫
さらに、このような夫の「あてにならない状況」は、妻が働いていようがいまいが、小さい子どもがいようがいまいが、ほとんど関係ないのです<詳しくはコチラ「何が夫に家事をさせるのか?>
60%以上の妻たちが「夫にもっとやってほしい」と思っている
このような夫たちの家事に対して妻はどう思っているのでしょうか。
20~49歳の既婚男女618名を対象に行われた「共働き夫婦の家事分担の実態」調査(マクロミル、2016)?によれば、共働き妻の3人に1人は家事分担に不満あり。59%が「夫にもっと分担してほしい」と回答しています。
では、このような妻の願い・思いは、夫たちに伝わっているのでしょうか。
2014のベネッセの調査によれば、「家事や育児に今以上にかかわりたい」と思う父親の割合は2005年から右肩上がり。
<ベネッセ「乳幼児の父親についての調査」>
父親たちの意識が1980年代の企業中心のライフスタイルから21世紀型の家庭中心ライフスタイルへの移行を切望していることは、データからみてとれます。
しかしここからが悲劇。
「自分は妻に必要とされている」と思う割合は2005年から下降の一途です。
世の中からは「家庭での男性の活躍が必要」と言われているからなんとか自分なりに頑張っている。しかし実際のところは、妻からは評価・必要とされていないと感じている父親が増えているのです。
妻たちの矛盾した要求:「もっと家事育児を」VS 「しっかり仕事を」
妻たちの気持ちの中にも矛盾がみられます。
少なからず妻たちは、「世の中の男性がもっと家事や育児をして、男女平等になるのはとてもいいことだ」と思っています。
子どもが産まれる前は同じ職場で同じような仕事をしていたにもかかわらず、いまは私ばっかり育児家事をしている、これってずるい、不公平だとも思っています。
と同時に、でもやっぱり、自分の夫・旦那にはまずしっかり稼いできてほしい」。
「スーツを着て、外でかっこよく仕事している男性じゃないと私個人としては惹かれない」(女性向け月刊誌『VERY』愛読者のワーママ)と本音を吐露します。
「男性は家族の大黒柱であるべきで、仕事で成果を出してなんぼ」
男性を縛るこんなマッチョイムズは、企業文化の中だけでなく、妻の心の中にも住み着いているのです。
「世間の風潮」と「目の前の妻」の間に価値観のズレ
「世間の風潮」が男性に求める役割と、「目の前の妻」が夫に期待する夫像との間にズレがあるのです。
次のようなメッセージです。前者が「世間の風潮」、後者が「目の前の妻」からのもの。
「残業などしないで早く帰ろう」vs「業績は落としてはいけない」
「男性ももっと家事や育児をしよう」vs「仕事ができない男はかっこ悪い」
これらのダブルバインド(「二重拘束」;2つの矛盾した命令を受け取った者が、その矛盾を指摘することができず、しかも応答しなければならいような状態)なメッセージが妻からも会社からも代わる代わる発せられています。
こうして父親たちはパニックに陥る。
現代の男性が「仕事」と「家庭」の両立を実現するには、単に時間や体力の配分を調整する必要があるだけではありません。
目の前で「もっと子育てに参加してよ」と文句を言っている妻にしたって、本音は「男は稼いでなんぼ」。
「どうすりゃ、いいんだよ、オレ?!」
「男であること」に対する内面的な葛藤を避けては通れない状況に置かれています。
夫婦間摩擦が社会現象化
このように男性は、「仕事」と「家事育児」という両立が難しい課題を突き付けられています。
その結果、夫婦の間で軋轢が生じることも多々あります。
男性からすれば「これ以上無理を言うなよ」ということになるし、
女性からすれば「私だけ家事や育児を押し付けられて納得いかない」ということに。
こんな軋轢のため、「産後クライシス」に陥るカップルも増えています<詳しくはコチラ「産後クライシスを防ぐために>。
要するに、どちらもキャパオーバー
男性であれ女性であれ、今多くの労働者が「仕事と家庭の板挟みになっている」のです。
今、夫婦が危ない、家族が危ない。
そんな崖っぷちに私たちは立たされています。
【参考文献】
竹信三恵子 2013 家事労働ハラスメント 岩波書店
おおたとしまさ 2016 ルポ父親たちの葛藤 PHPビジネス新書
内田明香・坪井健人 2013 産後クライシス ポプラ新書