育児に苦戦していませんか?

ちょっとした物音にもすごく驚いて大泣きする、
排泄や睡眠の周期がなかなか安定せず、不規則、初めてのところに連れていくと、母親からまったく離れない、ご機嫌な時間がすごく短く、機嫌の悪いことが多い、

このようなタイプな子どもだと親は疲れます。
どうしたらいいのと、親の方が泣きたくなります。
そして、自分の育て方がいけないのかと自己嫌悪に陥ります。

実は筆者の長女がこのような子でした。
子どもが喜びそうな所に連れて行ってあげても、全然楽しそうじゃないし、むしろ、思いつめ顔をしたまま固まってしまって動かない。
1歳3ヵ月のとき動物園に初めて連れて行ったときなどは、ずっとそんな感じ。
一度も笑顔はありませんでした。

また、たいてい不機嫌なので、外で近所のおばさんやママ友に会うと、「あらあら、Aちゃん、ご機嫌斜めね~。きっと、ネムネムなのね~」
いやいや、眠りは十分足りているんです(と内心突っ込み入れつつ)、
「いつもこの子こんな顔なんです」とも言えず、「そうなんです~、ネムネムで・・・」とあいまいに笑う私。

 

Difficult child(育てにくい子)って?

実は、こういうタイプの子どもが一定の比率(約10%)でいることを知ったのは、だいぶ後になってからでした。
“difficult child”と呼ばれるタイプの子どもです。
日本語では、「扱いにくい子」「育てにくい子」などの訳がつけられています。

アメリカの児童精神科医トーマスとチェス夫妻は、自分達の4人の子どもについて、
「親も同じ、環境も養育態度もほぼ同じ。なのに、なぜこんなに子どもたちの行動パターンに違いがあるんだろうか?」
と疑問をもちます。

彼らは1960年代からニューヨークで子どもの個性・性格の違いについて研究を始めました。
そして、子どもにはもってうまれたTemperature(気質・個性)があることをみいだします。

「人間の早期に出現する体質に根差した生来的な行動傾向で、外界に働きかけようとする際の行動パターン」をTemperature(気質)と呼んで、数百人の子どもたちの「気質」を観察しました。

彼らが注目したのは、①身体運動の活発さ、②睡眠・排泄など身体機能の規則正しさ、③環境変化への慣れやすさ、④積極的・消極的、⑤感覚刺激に対する敏感さ、⑥反応の現れ方の敏感さ、⑦ご機嫌・不機嫌の頻度 ⑧外部刺激への気の散りやすさ、⑨注意の長さ・集中力の9カテゴリーです。

 

3つの気質タイプがいることを発見

この9カテゴリーの組み合わせによって、子どもを次の3タイプの気質グループに分けました。
(1) Easy child(約40%); 環境に慣れやすい子=養育者からすると「扱いやすい子」
(2) Difficult child(約10%); 環境に慣れにくい子=養育者からすると「扱いにくい子」
(3) Slow to warm up child(約7%):エンジンがかかりにくい子=養育者にとっては「時間のかかる子」
(4) Other child:その他

大勢の子どもに接している保育士さん、あるいは二人以上のお子さんをもつ親なら、確かにこういうタイプいるとか、上の子はeasy childタイプだけど、下の子はどちらかというとdifficult childかなと思われるのではないでしょうか。

 

Difficult childをもった親は苦戦

一般に、気質上むずかしい子どもをもった母親は育児を負担に感じ、子どもとの折り合いもうまくゆかなくなりがちです。

そうした結果、子どものほうも元来慣れにくく不安定で回避的な「むずかしさ」が、いっそう増幅されてしまい、親子関係を悪化させます。
なかには後々まで適応の悪さを持ち越す例もあります。

しかし、「むずかしい」気質をもった子どもと母親とが、すべてこのような悪循環に陥ってしまうわけではありません。

 

子どもの気質に適合した育て方がキー

むしろ子どもの気質・個性を受け入れ、それにあわせて柔軟に接するとき、そうした問題は生じにくくなります。

筆者の場合は、長女を育てた時点では、このような子どもの気質についての知識はありませんでした。

でも第2・第3子(双子)が生まれたあたりからなんとなくわかってきたのです。
なぜなら、彼らは典型的なeasy childだったのです。
いつも機嫌がよく、安定していて、新しい環境にもすぐに慣れて楽しめる子たちでした。
双子なのに、長女一人を育てるよりはるかにラクで楽しい子育てでした。

これを見て、子どもにはタイプはあるんだ、私の育て方の問題ではなかったんだ、そう思うことができました。

そのあとは、この子はこういう個性をもった子なんだなと受け入れ、なるべく焦ったり、苛立ったり、怒ったりせず、彼女のペースとやり方で対応してていくように心がけました。
もちろん、まったく問題なくいい子に育ってくれました。

育てる環境や育て方の問題でないことも多い

日本では、とかく子どもの行動や親子関係に問題があると、家庭環境に問題ある、あるいは母親の育て方に問題があるという視点で解釈されたりアドバイスされることが多いようです。

しかし、このように子どもには多様な気質があるという発見・認識は、育児で苦戦している親にとっては救いです。
なぜなら、子どもたちの気質は、これは生後の環境や親の育て方とは関係ない生来的な個性だからです。

子どもの個性を知り、柔軟なかかわりを

わが子がどのような気質・個性をもって生まれてくるかは、親は選べません。
大切なのは、子どもの気質をよく見きわめ、親がその子にあった働きかけをすること。
子どもとの適合がキーです。一度、「こどもの気質・個性に合ったかかわりをしているだろうか?」と自問してみてください。
もっと親にとっても子どもにとっても無理のなくラクなかかわり方が見つかるかもしれません。

【参考文献】
柏木恵子・古澤頼雄・宮下孝広 2002 発達心理学への招待 ミネルヴァ書房