女性の時間の「活用」で社会問題を解決?

「女性が輝く社会に!」現政府は、アベノミクスの成長戦略として、こう高らかに謳い上げました。
しかし、その内実は、「日本にはいろいろ社会問題があります。なんとかしてくださいよ、女性たち」とのお願い。
つまり、女性の時間を「活用」することで多くの問題を解決しようと考えていることが透けて見えます。
たとえば、問題その1<超少子高齢化による生産年齢人口の減少>労働力不足を埋めるには、女性、高齢者、外国人を活用するしかない。
「女性たち、もっと子どもを産んでください!」、そして「もっと社会に出て働いてくだい(輝いてください)!」

問題その2 <高齢者医療費の増大、介護人材不足>お年寄りの大多数は在宅介護を希望しています。
三世代同居・近居で高齢者をみてくれたら、税制上の軽減措置も検討します。
だから「どうか三世代同居や近居をして家族で介護をしてあげてください!」。(「家族」といっても、家族という名の「女性」が大半)。

「女性も仕事をがんばりましょう!」(※ もちろん家事育児もね)

1つひとつは素晴らしい理念にもとづいていますが、どれもこれも実現するためには、
ひたすら女性の時間をあてにすることになります。
水無田(2015)は、「おそらくこの問題は、就労中心の男性の生活スタイルを変えることなく、
問題に対処しようとすることから派生している」と述べています。
金科玉条のごとく、「男性は仕事オンリー」。「仕事中心の男性の生活スタイル」はそのままに、
「女性に輝いていただこう!」=「女性に頑張っていただこう」!女性の時間ばかりがあてにされています。
人が暮らし、次世代に命をつなぐ上で避けては通れないケアワーク(家事、育児、介護など)。
その部分はこれまで通り女性の肩。女性たちはただでさえ忙しくて疲れているのに、
プラスαで女性に頑張ってもらうおうという心づもりです。
結果、「対症療法」的な政策にならざるを得ません。要するに根本的な改善・解消にはつながりません。
このままでは、日本の女性は忙しくなるばかり、時間のなさは解消されないでしょう。

日本の働く女性は世界で一番寝ていない

「女性の活躍推進」で職場での女性の進出が進み、男女同じ仕事を任されるようになってきました。
一方で、「男は仕事第一」、男性の家庭進出はほとんど進んでいません。家事育児の負担は依然として
女性の肩に重くかかります。
仕事と家事のダブルワークに追われる「日本の働く女性」の睡眠時間は、なんと世界最短。
男性より女性のほうが睡眠時間が短い国は日本だけです。

 

ワーキングマザーの労働時間は「ブラック企業並み」

ワーキングマザーの1日の労働時間は、家事育児も加えると、ざっと13時間以上に達します。
この猛烈な忙しさは、「ブラック企業」で働く人以上。フルタイムで働くワーキングマザーの日常は壮絶です。
・・・・・ 会社を18時頃出て、ダッシュで保育園に子どもを迎えに行き、夕飯の買い物をして夕飯を作り、子どもに食べさせ、お風呂に入れて、寝かしつけるのがやっと21時~22時頃。
こうして、子どもがようやっと寝静まると、今度は、母さん、残務処理を始めます。
残業せずに帰宅しているため、やるべきことが山積みなのです。
だから、やむなく、リモートアクセスで会社のイントラと繋がって、明日の会議資料を作ったり、メールの返信を打ったりする。
そんな頃、ようやく、ご主人がご帰還です。そして、今度は夫のご飯の世話……なんてことになる。
こうして、寝るのは日付けが変わるころ。そして、また翌朝、早朝に起きて、子どもの登園準備、保育園への送り、
そして、満員電車に揺られて職場に行き、残業出来ないから人の倍速で働く、というわけです・・・・
(東洋経済オンラインの「ワーキングマザー・サバイバル」より)
毎日がこんな感じ。

このまま放置していたら、疲労で休職に追い込まれる羽目に、あるいは根詰め過ぎて“過労死”なんて最悪の事態を招きかねません。
実際、ひと昔前までは、過労死というと男性がほとんどでしたが、最近では、女性の過労死も起こるようになってきています。
「女性が輝く社会」「女性の活躍」政策は、このようにこれまで以上に女性の頑張りを求めています。
そのため、「結局女性はめいっぱい働かされて、めいっぱい家事・育児・介護もやれということなの?」と心配する声まで出てきています。
輝くというのは、「SHINE」と書きます。SHINEは「シネ」とも読めるのです。
だから、「これって、ひょっとしたら女性に『死ね』ということ?」とうがった言い方をする女性まで、インターネット上には登場しています。

前述の水無田(2015)はこう述べています。あまりに強固な母役割規範や家族規範のさなか、
「旧来の規範に適ったいいご家庭」を営みつつ、仕事も子どもも・・・と女性にばかり多くを臨むのはあまりにも無理がある。
思うに、政府の望む「女性活躍推進」は、「日本女性超人化計画」とか「女神降臨クエスト」などと呼んだ方がいいのではないか
日本のケアワーク(家事、育児、介護、地域活動など)を担う女性たちは、「超人」か「女神」でもなければ、
“輝く”どころか“死んでしまう”かもしれない現実に直面しています。
「女性たち、もっと輝いて!」と言われても、女性たちから歓迎の声があがりません。
むしろシラケているのはこんな現実をよく知っているからなのでしょう。

 

【参考文献】
水無田気流 「居場所」のない男、「時間」のない女 日本経済新聞出版社 2015