性による「子どもの価値」の差

30年ほど前から「女の子」人気が止まりません。特に母親たちの間では、断然人気です。この記事では、なぜいま「女の子」人気が高まっているのか、その理由を「子どもの価値」という視点から考えてみたいと思います。

これまでの記事で、日本ではここ数十年間で、子どもが「授かる」ものから「つくる」ものへ変化したこと(詳しくはコチラ「子どもの価値」(1))、また、子どもを産む理由が<自然・当然・社会のため>から<条件次第・自分のため>に変わってきたこと(詳しくはコチラ「子どもの価値」(2))を見てきました。「女の子」の人気が高まっているのは、上記のように「子どもの価値」が変化したことと関係しています。

工業化以前の社会では、圧倒的に「男の子」が人気

一口に「子ども」といっても、男児か女児かによって価値の差があります。
子どもにどのようなことを期待できるか、その内容が異なるからです。
工業化以前の社会や開発途上国では、「子ども」は働き手・稼ぎ手としての価値(実用的経済的価値)をもっています。
こうした社会では労働といえばほとんど肉体労働ですから、筋力に勝る男児は女児よりずっと価値が高まります。しかも、家業を継ぎ、親の老後を見るのは男子である場合が多いので、その点からも男児の価値が高いのです。
日本でもその昔、娘ばかりをもった親の嘆きは大きく、娘だけ産む母親への「女腹」という軽蔑語さえありました。

筆者には双子の男児がいます。その彼ら二人を双子用ベビーカーに乗せて散歩をしていた時、かなりご高齢のご婦人が近づいてきて、「あら、お二人とも男の子!まぁ、お手柄ですこと」とほめられたことがあります。
そのご婦人の「お手柄」なるほめ言葉(?)に、「いえいえ、たまたま生まれてきたのが男の子だったというだけの話なんだけど~」と内心突っ込みつつ、この方が子どもを産んだ時代は、男の子(=跡継ぎ)を産めるか産めないかは“女の戦い”でもあったのだなぁと複雑な気持ちにさせられたのを覚えています。

「一人っ子政策」をとっていた中国では第一子が女児だと届けを出さず『無国籍児』にしたり、密かに闇にケースが少なくなかったと聞きます。このため、現在、中国の男女比率は男性に大きく偏ってしまい(男:女=105.06 : 100)、男性の結婚難が深刻化しています。

先進諸国では「女の子」の人気上昇

これに対して、労働の機械化・情報化が進んだ社会では、知識技能レベルが同じなら労働力としての価値に男女差はありません。
親の扶養責任や遺産の相続も性別や出生順位による差はなくなり、戦前は長男の義務とされていた老後の介護もまったく期待できなくなりました。すると、かつてあんなに高かった男児の価値は低下し、女児の価値がこの30年あまりの間に急激に高まりつつあります。

図1は、これから子どもを産む世代を対象に、「男の子」と「女の子」どちらが産まれるといいと思いますかと尋ねた調査(厚生省)の結果です。 この図からも明らかにように、男児願望が強い時代が長らくつづいていました。ところが、1980年代を境に「女の子」が歴史的大逆転を果たしました。

なぜいま女児願望?

では、なぜ親にとって「女の子」のほうがより価値をもつのでしょうか?
次のような理由が考えられます。


女の子がほうがより多くの精神的満足が得られる

先にみたように、最近は親は子どもに「精神的価値」を求めるようになってきています。
この点で、特に母親の場合は、娘の方が小さい頃はオシャレをさせたりできて“可愛い”、娘が年頃になったら一緒に買い物や旅行に行ったりできて“楽しい”、話相手になってもらえて“頼りになる”などなど、より高い価値を「女の子」に見出す傾向が強まっています。

女の子のほうが、親が投入しなければならない心身のエネルギーが少なくてすむ

一般に「男の子」の方が“育てにくい”といわれています。“育てにくさ”は主観的なものですが、統計的には男の子のほうが、身体的・心理的な疾患にかかる確率が高いことが明らかにされています。ならば“育てやすい”といわれている女の子のほうがと思ってしまうのでしょう。

女の子のほうが、親が投入しなければならない経済資源が少なくて済む

最近、大学進学率の男女差が縮まってきていますが、それでもまだ大きな差があります(男子51.5%:女子47.4%, 2015)。この差は能力差とは考えられないので、本人の希望にかかわらず、親が男の子に「せめて大学まで」と希望した結果と考えられます。つまり、男の子の方が教育投資は大きくなりがちです。


女の子のほうが、老後の介護・世話役割を頼みやすい

親は子どもに老後の“経済的な支援”は期待できなくなりました。しかし、それでも、心のどこかで歳をとったら介護をしてほしい、介護が無理ならせめて“精神的な支え”になってほしいと願います。いざ介護となれば家事ができる女の子のほうがあてになる、また“精神的支え”にもなってもらいやすい、そう考える親は決して少なくないでしょう。

以上、4つの理由を見てきましたが、一言でいえば、親、特に母親からみて「女の子」のほうがワリに合うと考えられている、その結果の「女の子」願望であるようです。