「育児困難」社会を救うカギは、人間の脳・体の無限の柔軟性・適応性!?

父親たちよ、ママたちの非常事態を救え!


男性たちよ、社会の非常事態(少子化)を救え!

最近、「ワンオペ育児」「孤育て」の弊害がとみに指摘されるなか、父親・男性の育児参加が声高に叫ばれています。
しかし、当の父親・男性たちからは時にこんな声も漏れ聞こえます。 「でもね~、やっぱり母親にはかなわないよ・・・」


本当にそうなのでしょうか?
記事「父親は母親にかなわないのか?」では、心理学の研究をもとに、「イヤ、叶うんだ」という話をしました。

この記事ではさらに踏み込んで、それはどうしてかというと、父親・男性の体内で生理学的な変化が起こるから、という話をしたいと思います。

育児体験で男の脳が変わる!

男性は進化的に、また脳の仕組みにおいても、女性に比べると育児に対する能力が低いと言われています。ということは、男性はどんなに頑張っても、女性のように育児に対応できる脳・体にはならないのでしょうか?


大阪医科大学教授佐々木綾子さんの研究チームがこの問いに答える研究を行いました。

独身の若い男性(もちろん育児初心者!)に、週に一回2時間の育児体験を3カ月にわたって行ってもらい、脳の変化をMRIで調べました。

3名の男子学生が保育士さんの指導のもと、まずは赤ちゃんを抱く経験からスタート。
最初、緊張で手が震え、額からは滝のような汗。おもちゃ遊び、おむつ交換、食事の世話、男子学生たちは緊張と困惑の表情でした。

しかし、そんなバタバタの育児体験も終わり頃になると、学生たちの表情がやわらいできました。愛おしそうに赤ちゃんの顔を覗き込むまでに。

この研究に同伴したNHK取材班が男子学生に尋ねます。
「いまどんなお気持ちですか?」。その質問に彼らは「こうやって面倒をみてあげて、泣きやんでくれたり、笑ってくれたりとかすると、すごく嬉しいです。自分の子どもがほしくなりますね」と笑顔で答えていました。

育児体験後の脳の変化/父性の芽生え?!

では実際に、これらの男子学生の脳に変化はあったのでしょうか?
MRIで調べると、なんと男子学生の脳は、育児体験後、赤ちゃんの泣き声に対して反応する場所が増えていました。女性の場合と同様、子どもに愛着を感じる部分など、脳の複数の場所が新たに活動するようになっていたのです!

なんとも不思議ですね。
私たち人間の脳は、環境・経験によって柔軟に変化し続けることに大きな特徴があります。
この脳の柔軟性・適応性のおかげで、私たち人間は、700万年にも及ぶ激変の環境の中を生き延びてこられました。

男性も例外ではありませんでした。男性であっても(子どもを産まなくても)経験を重ねれば、育児に適した脳に少しずつ変わっていくことがわかりました。

パパの育児で家族の絆が深まる

さらに積極的に育児に協力する、いわゆる「イクメン」には、脳の変化以外にも嬉しい変化が起こることがわかってきています。

イスラエルで行われた研究(ルース・フェルドマンさん)を紹介します。この研究には、41名の父親が参加。
15分間、わが子と触れ合った後に血液を調べるました。
すると、体内で“愛情ホルモン”とも呼ばれているオキシトシンという物質が増えていることがわかりました。

体内でオキシトシンが分泌されると、わが子への愛情が深まり、目を合わせたり、触れ合ったりするという愛着行動が増えます。
つまり、父子は触れ合うことで互いに愛情が深まり、親子の絆が深まることが示されました。

もう1つ、体の変化という点でにわかには信じられない話をします。
筆者が幼児期の子どもをもつ母親約30名にインタビュー調査を行っていたときのこと、一人のお母様(Bさん)から驚愕の事実を打ち明けられました。
Bさんはためらいながらも、こんな話をしてくれました。

「夫は子どもが生まれたとき可愛くて可愛くてしょうがないらしく、もう本当に四六時中気にかけ世話をし可愛がっていました。彼にとってそんな至福の日々を過ごすうち、なんと彼の胸が膨らんできたんですよ!」

赤ちゃんを愛おしいと思う感情、実際にまめまめしく世話をやく行動によって、この方のご主人の体内に母乳分泌させるオキシトシンが大量に分泌されたのでしょう。その結果、進化論的には退化したはずの男性の乳腺が活動を開始したものと考えられます。
ここでは、もはや「母性」、「父性」という言葉の別は不要です。人間の体は実に不思議な可能性を秘めていることが分かります。

現在、“非常事態”と言われるほど超絶「育児困難」の時代です。「やっぱり母親」「父親は母親にかなわない」と悠長なことを言ってる暇はありません。
こういうときだからこそ、男女にかかわらず、人間の体に秘められた力をもっと意識したいと思います。
そして、すべての人間に「育児性」が備わっていること、そして、それは日々の子どもとの触れ合いの中で育っていくものであることを再認識したいと思います。



【参考】ママたちが非常事態!?: 最新科学で読み解くニッポンの子育て 単行本– 2016/12/23 NHKスペシャル取材班 (著)