夫に対して怒り大爆発

あの尋常じゃない怒り方はなんだっただろう? 30年以上経ったいまでも、夫に対して“鬼”と化した自分を苦い思いで思い出します。 その日、夫は私より一足早く、生後半年ほどの長女をベビーカーに乗せ、近所の店に買い物に行きました。 私が“鬼”と化した理由は、些細な出来事でした。その出来事とは、少し後に彼らを追った私がベビーカーに娘を一人残したまま夫が一人店内に入っているのを見てしまったことです。 日本ではよく見かける日常風景の1つ。しかし、そのとき私の頭をよぎったのは、「この隙に誰からが娘を連れ去るかもしれない」という妄想・不安でした。 その妄想・不安が私を激怒させました。
こんなにも必死になって産み、育てている可愛い娘。なのに夫ときたら、なんと不注意で無神経なの?! 何かあったらどうするの?!

夫はもはや“敵”?!

家に帰るなり怒り・憤りを抑えきれなくなった私は、夫に向かって感情を爆発させました。 ふだん私は決して短気でも感情的でもありません。それだけに私の豹変ぶりに夫もさぞ驚いたことでしょう。 「なんでこんなに?!」と自分でも驚くほどの激しさ。「怒り狂う」という言葉がピッタリ。全身全霊、心の底から込み上げるようにして怒っている、そんな状態でした。 このときの夫は、私にとって愛しいわが子を傷つけかねない“敵”だったのだと思います。

イライラ&ガミガミ化した妻にうんざり?!

この一件に限らず、当時、私は娘に対する夫の扱いがどうしても気になってしかたない状態に陥っていました。 夫は子育てには協力的。家にいるときはオムツ替えからお風呂入れまで比較的よくやる夫でしたが、「哺乳瓶の煮沸消毒をちゃんと(10分間)していない」「お留守番中にビデオばかり見せてないで」などなど、ついイライラ&ガミガミ。 夫もさぞうんざりしていたことでしょう。心の中ではきっと「小うるさいわ~」「こんな細かいこと言う女じゃなかったのに」「変わっちゃったな~」と嘆いていたことでしょう。互いの思いがかみ合わず些細な事から喧嘩に発展ということも多々ありました。

妻が“母”になったときに訪れる産後クライシス

このように産後、妻が夫に対して不満を募らせ、そうした妻を夫が嫌になることは、「産後クライシス」(サイト内別記事➡)と呼ばれ、最近、どの家庭でもごく当たり前に起きることだという認識がなされるようになってきています。 ベネッセ総合教育研究所の「はじめての子どもを出産後の夫婦の愛情の変化2006-2009」によれば、産後の夫への愛情を調べた調査では、産後2年で妻の夫の愛が半減しています。 世界のさまざまな調査でも、産後に夫婦満足度が大きく下がることがわかっています。

出産・授乳に大切な役割をはたす“愛情ホルモン”

非力な人間の赤ちゃんを育てるために、夫の協力は不可欠です。だったら産後こそ、夫婦の愛は強まった方が好都合なはず。なのに実態はむしろ逆?! なぜ育児中、最も助け合いたい夫に妻はなぜイライラしてしまうのでしょうか? そして、最悪の場合には離婚にまで至ってしまうのでしょうか(産後2年間が最も離婚率が高いことが報告されています(詳しくはコチラhttps://www.3522navi.com/guide/archives/19 ) 実は、そこには、あるホルモンが深くかかわっていることが最新研究からわかってきました。 そのホルモンとは「オキシトシン」です。このホルモンには筋肉を収縮させる働きがあります。出産のとき、脳の下垂体から大量のオキシトシンが分泌され子宮に働きかけて産道の筋肉を収縮させ、陣痛を起こします。また、乳腺の筋肉も収縮させ、母乳を分泌させます。 最近の研究では、オキシトシンは血流で運ばれて子宮や乳腺に働きかけるだけでなく、脳にも作用して親子の愛情や夫婦の愛情などを深める働きをすることも明らかにされています。 したがって、別名、“愛情ホルモン”とも呼ばれています。

“愛情ホルモン”はときに攻撃性の原因に?!

このように見てくると、オキシトシンはいい影響ばかり与えているようにみえます。しかし、オキシトシンには、子どもや夫に対して愛情を感じさせる働きがある一方、子どもに危害を加えたり子育てを邪魔するものに対しては、攻撃性を増すという働きもあるそうです。 動物でも子育て中の母親は気が立っているの用心しろと言われます。 赤ちゃんを守るため通常向かっていかない相手にもひるむことなく立ち向かうからです。 「母は強し」と揶揄される所以です。人間も同様で、オキシトシンが増えると、不快に感じた相手に対して攻撃性が高まることがわかっています。 ですから夫に対して不快を感じたときには、怒りや攻撃性は何倍にも増幅されてしまいます。ましては、それが子育てを手伝ってくれないという不満であれば、子育ての邪魔者として攻撃対象になってしまう可能性さえあるのです。それがたとえもともと愛していた夫であった場合でさえ・・・ 冒頭で述べた通り、かつて私が気も狂わんばかりに夫に怒り狂った原因のひとつに、このオキシトシンが一役買っていたといえそうです。

一方、“愛情ホルモン”は夫婦の絆を深める?!

なんだかオキシトシンはやっかいなホルモンですね。しかし、子産み・子育てに欠かせないホルモンなのですから、うまく付き合っていくしかありません。 幸運なことに、オキシトシンに攻撃性を何倍にも増幅する一方で、愛情も増幅してくれるます。ですから、夫が積極的に育児に協力したり、育児に忙しい妻をねぎらったり優しい言葉をかけたりすれば、夫への愛情も何倍にも増幅され、二人の絆を深めることにつながります。
幸運なことに、オキシトシンに攻撃性を何倍にも増幅する一方で、愛情も増幅してくれるます。ですから、夫が積極的に育児に協力したり、育児に忙しい妻をねぎらったり優しい言葉をかけたりすれば、夫への愛情も何倍にも増幅され、二人の絆を深めることにつながります。 私の友人はこの時期、夫との関係が悪化し、お子さんが3歳のときに離婚してしまいました。ところが、彼女は子育て期はだれでもこのような状態になるのだということを後になって知ったそうです。そして、「もしそのことを当時知っていたら・・・」「夫への愛が冷めたワケではなかったから、離婚はしなかったと思う」と後悔の念を吐露してくださいました。 私は、「もし知っていたら・・」の言葉をつらく切ない気持ちで聞かざるをえませんでした。それだけに一人でも多くの方、特に子育て最中の方、これから子どもを産み育てる方は女性男性を問わず、「オキシトシン=ときに愛情&ときに攻撃」であることを知っておいていただけたらと思います。 オキシトシンのこんな仕組みを知れば、夫が育児に協力する新たな意味も感じていただけるのではないでしょうか。 【参考文献】 NHKスペシャル取材班 ママたちが非常事態!? 2016 ポプラ社