「高拘束」が日本を経済大国に

子育て期は、本当に大変です。

“ネコの手も借りたいくらい”なのですが、日本の父親ときたらときに「ネコの手」の手にもなりません。

なぜなら、毎晩、帰ってくるのが遅いから・・・

 

でも、ほとんど父親は、子どもが小さい間くらいもっと子育てやりたい、家事もしなければ、そう思ってはいるのです。

思っていてもできないことの背景に、日本の雇用環境、特に「高拘束」の問題があります

詳しくはコチラ<『ブラックハズバンド』」と呼ばないで>

 

しかし、「高拘束」自体に問題があるのではありません。

日本では、男性の「高拘束」が有効だった時期もありました。

経済成長率が平均10%を超えた高度経済成長期(1955~1972年)です。

 

高度成長期には“寄らば大樹の陰”の安心感

この時期は「年功序列」「終身雇用」が広く普及。

なぜなら、このような「丸抱え人事」は、効率的にモノを大量生産する時代にあっては、経営者にとってもっとも都合のよい働かせ方でした。

 

サラリーマンは黙ってエスカレーターに乗っていれば昇進・昇給が約束されていました。

実際は、「高拘束」ではあったのですが、そこは“寄らば大樹の陰”。

一生、安心して仕事や「会社最優先」の生き方を貫くことができました。

 

「高拘束」による見返りは、経済的なものだけでなく、企業の一員としての高いプライド、確固とした職業人としてのアイデンティティなど心理的な面にも及びました。

会社は「家」にかわる存在、心の拠り所でもさえありました。

 

ですから、本当の「家」に帰って、幼い我が子に「おじちゃん、また来てね」と言われても、妻との会話(?)が「フロ、メシ、ネル」だけであっても、別段さびしいと感じることはなかったのかもしれません。

「高拘束」による見返りがそれ以上に大きかったからです。

 

ところが、バブル崩壊以降、状況が大きく変化しました。

 

バブル崩壊で、「高拘束」的制度はガラパゴス化

企業は不況を乗り切るため、徹底的な人事の合理化を敢行。

能力主義、業績主義を打ち出した企業からは、従来のような「丸抱え」のイエ社会的要素が失われつつあります。

 

会社中心に生きてきた男性にとって、アイデンティティの喪失にもつながりかねない状況です。

最近、男たちの「自信のなさ」、「元気のなさ」がよく言われるのはきっとこのためです。

 

こうして高度経済成長期には戦略的にイケてた「高拘束」は、経済が低迷期を迎えた今日、ガラパゴス化してしまいました。

 

企業が合併吸収で統廃合を繰り返し、そのたびに解雇や左遷を申し渡される社員が大量に発生する今日の状況では、そこまで会社に殉じても裏切られた時の失望が大きくなるだけです。

「高拘束」という名の魔法が解かれるべきときが来ていると言えるでしょう。

 

企業、政府、男性で「痛み」分けが重要

それは1つには、もちろん、自信と元気を失っている男性自身のため。

そしてもう1つは、女性のため。なぜなら、残業も転勤も辞さない男性の働き方を全く変えないまま、女性にだけ「もっと活躍して!」のやり方は限界を迎えているからです。

しかし、魔法を解くのはそんなに易しくありません。

個人の力、いわゆる男性が自助努力で頑張るだけでは無理でしょう。

 

国も会社も総出で、「高拘束」の魔法から男性を解き放つ必要があります。

そのためには、①企業(勤務時間の短縮など)、②政府(保育、介護などの社会化の促進)③男性(家庭進出)の三者がバランスよく“痛み分け”をするしかないのではないでしょうか。

これらが、バランスよく機能すること ➡これまで女性が一手に抱えていた家事育児などの負担が分散る ➡ 女性はその空いた時間で賃金の稼ぎ手に回る ➡ 男性も会社にしがみつかない生き方ができる、子育て中は「イクメン」になれる、こんな好循環にできあがるはずなのですが・・・

日本でも変化の兆しが・・・

変化の兆しは少しずつ見えつつあります。

20代、30代の男性と、会社への忠誠心は薄れてきています。納得のいかない働き方を強いられるくらいなら転職も辞さないと覚悟している若者も増えてきいます。

企業は企業で、夜8時にはパシャッと消灯してしまう会社も増えています。残業するなら朝早く来いという商社もあります。

男性の育児休業の取得率が全国平均で約2%にとどまる中、日本生命保険は3年連続で100%を達成しています。子どもが産まれたと申請した男性には、育休取得の計画書を人事部に出すよう義務つけたところ、「生まれたら育休」という流れができたといいます。

「生きるため働く」ことができる社会に

企業はこのように育児世代の男女に対して育児を配慮した働き方をしてもらうことが、業績に直結するため、動きが早いし柔軟です。

一方、政府は、「働き方改革」は不可避との認識のもと、旗振りに努めています。もっとも、「3年間抱っこし放題」法案は「残業代ゼロ政策」法案など反対の多い政策を提案するなどやや的外れぶりを露呈していますが・・・。

いずれにしても、企業も政府も真剣になってほしいところです。高度経済成長期には日本を世界第二位の経済大国に押し上げた「高拘束」の働き方は、時代がかわって、今やもはやガラパゴスです。

いっしょに魔法を解いていきましょう!私たちは「生きるために働く」のであって、「働くために生きている」のではありません。まして子育て期は子どもっても、親にとっても人生に一度きりのかけがえのない“黄金のよう日々”なのですから。

【参考文献】

おおたとしまさ 2016 ルポ父親たちの葛藤:仕事と家庭の両立は胸なのか PHPビジネス新書