この記事では、「子育てのしやすさ」で世界の注目を浴びている北欧の国々の1つ、フィンランドを取り上げ、フィンランドの子育て事情を見てみましょう。

 

「イクメン大使」の“世界一しあわせな子育て”

「イクメン大使」と呼ばれたあるフィンランド人男性ミッコ・コイヴマーさんの例をご紹介します。

ミッコ・コイヴマーさんは2010~2015年の5年間にわたり、駐日フィンランド大使館の報道・文化担当参事官として東京に在住していました。奥さんと当時2歳の息子さん、生後2カ月の娘さんと共に来日。

東京で生活をしていたミッコさんは、任期中「イクメン大使」という愛称で、講演などを通し自らの経験を基にフィンランドの子育て事情を発信し続けました。

 

2013年に自身の著書フィンランド流 イクメンMIKKOの世界一しあわせな子育て』(かまくら春秋社刊)を出版。

当時はまだイクメンという言葉が出始めたころ、フィンランドでの当たり前が、日本の子育て世代に大きく響きました。

毎日子どもたちとのゆったり豊かな時間

著書の一節をご紹介しましょう。

 

― ほとんどの場合、僕は17時頃に仕事を終え職場を後にします。日本の労働環境からみれば、僕は恵まれているといわざるを得ません。・・・18時頃には自宅に帰り、日が長く心地よい季節なら夕食の前に子どもたちと公園に。

 

・・・その後、家族そろって妻が用意してくれた夕食をとります。食事の間は、子どもたちとその日にあった出来事を語り合う時間。僕は息子や娘に、「今日はどんなことをしたの?」「どうしてそれが楽しかったの?」などさまざまな質問します。自分自身はあまりしゃべらないようにして、とにかく子どもたちが自由に繰り広げる話に耳を傾けるようにしています。ふたりは、とても楽しそうに話を続けます。

 

・・・夕食を摂った後は僕が子どものたちの面倒を見る番。・・・丸一日子どもと離れていた僕にとっては、息子と娘と過ごす時間が1番の楽しみ。

・・・その後、週に何度かは僕が子どもたちをお風呂に入れます。これもまた、1日のうちでとても楽しみな時間です。3人でバスタブに浸りながら、ムーミンやプラスチック製の恐竜のおもちゃを使った作り話をして遊ぶのです。

 

・・・最後に歯磨きを済ませたら、息子と娘はねんねの時間です。寝かしつけには絵本の読み聞かせや、頭の中で作り上げたお話をすることも欠かせません。・・・たまに子どもたちは悪夢や風邪をひいているなどの理由で、夜中に何度も目を覚ますことがあります。そんなときには、エリサ(妻)と僕が交代で付き添います。

 

毎日がこのような感じ。ゆったりと豊かな時間が流れていますね。

マッコさんが、子育てをいかに楽しんでいるか、またいかに子どもに愛情を注いでいるか、その父親ぶりがまぶしいですね。

 

平日の昼間からベビーカー押して「お散歩」のパパがいっぱい

次のエピソードも今日のフィンランドの日常をとてもよく表しています。

 

―― 数年前あるアメリカ人ビジネスマンが会議のためにヘルシンキに滞在していたときのこと。休憩時間中、彼は気分転換にフィンランド人の同僚と市内を散歩することにしました。

 

その間あまりにも多くのベビーカーを押す男性たちとすれ違うため、彼はこう尋ねました。

「ずいぶん多くの男性のベビーシッターがいるようだけど、なぜだい?」

するとフィンランド人の同僚は笑いながら、「彼らはベビーシッターじゃないよ。普通の父親さ」と答えました ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話の真偽のほどはさておき、これほどまでにフィンランド人男性は子育てをしています。

男女ともに働いて育児をするのが常識。

だから、フィンランドでは、父親母親にかかわらず親のワークライフバランスを保つため、法律がしっかり整備されています。

「出産して3年間は同じ職場、ポストに戻れる」こと、「子どもが3歳以下の場合、時短で働く親を残業させてはいけない」ことなども法律で決められています。

ちなみに先にご紹介した妻エリサさんもマッコさんの日本での駐在終了後、元の仕事に復帰することになっているそうです。

 

いまや8割の父親が育休取得:夫婦関係にも好影響

この国には男性たちの子育て参加を促すため数々の政策があります。

「父親休暇」は、1980年代初頭には確立していました。

 

ただ、当時は、制度はあっても男性が育休を取ることは少なかったそうです。

会社の目、世間の目、そして給料減額といった理由です。

いまの日本と同じですね。

 

しかし、政府は9週間の父親休暇を取れるようにして、その間は給料の7~8割を支払うようにしました。

そうしてから徐々に、この父親休暇制度を取得する人が増えていきました。

2013年時点では、約8割の男性が育休をとっているそうです(ちなみに日本の男性の取得率は2015年時点で2.65%です)。

 

多くの研究により、父親休暇を取得して長い期間子育てを担ってきた父親は、子育ての苦労と日々の家事をよく理解するようになることが明らかにされています。

この結果は家庭内における家事分担を公平にし、夫婦間の争いごとを減らすことにもつながっているようです。

 

人は誰でも実際自分でやってみないと、本当の大変さ・楽しさはわからないものです。

父親にとっては、育休はそれを体験・実感できるなによりの機会になっているようです。

 

「イクメン」という言葉のない国

日本では、数年前から育児をよくする男性を賞賛する言葉として「イクメン」という言葉が流行っています(最近少し陰りがみられますが・・・)。

しかし、驚くことに、フィンランドではこんなに男性が育児をやっているのに「イクメン」という言葉がありません。

なぜなら、父親がみんな「イクメン」だからです。

「イクメン」が当たり前なので、あえてそれを表す言葉は無用というわけなのですね。

 

【参考文献】

ミッコ・コイヴマー フィンランド流イクメンMIKKOの世界一しあわせな子育て