あなたは子育てを楽しんでいますか?
もし、あなたがそれほど楽しめていないなら、この記事を参考にしてください。
日本の母親は、世界的にみても子育てを楽しめていない傾向がみられます。
しかし、すべての母親が楽しめないわけではありません。
楽しめている母親とそうでない母親はなにが違うのでしょうか。
これについては、これまで数多くの育児不安についての調査研究が行われています。
その結果、次のような条件がクローズアップされています。
① 夫(父親)の育児への関わり ② 母親自身の職業の有無、です。
以下で詳しくみてみましょう。
父親不在は母親を心身ともに追い詰める
最初のポイントは、夫の関わりです。
父親である夫の仕事が忙しく、もっぱら母親が育児を担っている場合、育児・子どもへの不安・不満は高まります。
これは専業主婦の場合、そうなる可能性は高いですが、それだけではありません。
母親が有職でも、次の項目への回答が高い人ほど育児を楽しめていません。
「育児を自分だけで背負っている」「(夫婦)ふたりで子どもを育てていると実感できない」
「夫は親としての責任をとっていない」
母親が自分ひとりで子育てをしていると感じるとき、子育てに否定感・拒否感をもったり、子どもを疎ましく感じる傾向が強まります。
もし、このように感じていらっしゃるなら、「まさにこのように感じているのだけれど・・・」といって、一度パートナーの方と話し合ってみてはいかがでしょうか。
では、「ワンオペ育児」だと(母親が感じるとき)、どうして母親は子育てが楽しめないのでしょうか。
一人で子育てする社会・文化はない
これまで人間は、子育てをすることで人類という種を残してきました。
その人類の子育てにはどのような特徴があるのでしょうか。
文化人類学者たちの調査研究によれば、世界中どの社会文化も一人で子育てを行っている社会はないそうです。
すべて、複数保育。親に限らず誰であれ必ず複数の人が子育てに携わっているというのです。
人間の乳児ほど身体的には無能未熟で万全の世話・養護を必要とする哺乳類は少なく、さらに、成熟までにこれほど長期の年数を要する種はありません。
シマウマの出産シーンをテレビでご覧になったことがありますか。
シマウマの赤ちゃんは、生後数時間で立ち上がり、お母様シマウマのあとをヨチヨチとついて歩きます。
ヒトの子はあそこまでいくのに最低1年はかかるのです。
ヒトは、はなんと手のかかる動物なのでしょうか!?
だから、物理的・心理的に、「ワンオペ育児」は無理なんです。
近年、日本では長時間労働などの問題でかつてなく「父親不在」の現象が一般化しています。
人類の子育ての必要条件を欠いた危機的状況といえるでしょう。
無職の母親で育児不安がより強い
次にポイントとなるのは、母親の職業の有無です。
育児不安の規定因を分析した研究は、一致して職業をもつ母親よりも無職の専業母親に育児不安が強いことを明らかにしています。
「世の中から取り残されていくように思う」「なんとなくイライラする」「感情がうまくコントロールできない」「自分の行動がかなり制限されている」などなどの不安・焦りです。
育児不安の強い女性に特徴的なこれらの不安や焦燥感は、個人としての関心や行動が子育てによって阻害されているという母親の意識を反映しています。
無職の専業主婦に強いのは、自分の資源を子どもだけに投資することを余儀なくされることで、母親の一人の人間としてのありかた・生き方が脅かされていると感じてしまうのです。
子育てが苦し過ぎて・・・
筆者も第1子のときは、仕事を辞めて専業主婦として子育てしていたので、この不安や焦りがよくわかります。
1日3度3度食事を作り、食べさせると汚し、遊ばせると汚し、片づけたと思ったら散らかし、明けても暮れてもこんな毎日。子どもは言うことを聞かない。なかなか寝てくれない。
毎日くたくたなのはもちろんのこと、それ以上に先行きの見えない焦燥感やがんじがらめの束縛感は、それまでの人生でかつて経験したこともないものでした。
自分のことが何もできないんですから。
新聞読むのはトイレの中だけ、食事だって立ってしていた時期があるのを思い出します。
正直、私の人生はどうなってしまうのだろうかと、ときに深い絶望感にも苛まれいました。
そして、夫はというと、「(この時期の)私がこんな可愛い子どもたちと毎日いっしょでさぞ子育てを楽しんでいるんだろうなあ」と思っていたそうです。後で知ったことです。
言ってないので当たり前ですが、言ってもわからなかったとは思いますが・・・。
子育てが苦しかったこともあり、私は仕事を始めました。
最初は家でできる仕事から、徐々に、外に出ていくようにもなりました。
仕事をもつと、子育て以外の別の世界をもてることの意義が大きいのだと思います。
自分のキャリアも伸ばせるし、ママ友以外の多様な人にも出会えて世界も広がります。
「お母さんは、自分と僕たちどっちが大切なの?」
筆者の息子(長男)が、小学校一年生になったある日突然、ただ純粋に前から聞いてみたかったんだけどといった感じで聞いてきました。
「お母さんは、“自分”と“僕たち”とどっちがたいせつなの?」という質問でした。
そのころ“自分の世界”も大切にするようになっていた私は、一瞬ドキッとしました。
真剣に考えてみたあと、少し間をおいて、
「そうね~。両方、大切!」と自信をもって答えました。
その答えに、安心したのか、満足気にニコッとした息子の顔が今でも忘れられません。
柏木恵子さんは著書のなかで、子育てだけをしている女性の育児不安が強いのは、女性たちが、種の保存・繁殖(=子育て)だけに自己資源(時間、能力、エネルギーなど)するだけでは満足できなくなり、自分自身の成長・発達にも自己資源を投入したいと強く望むようになったからだと指摘してます。
自分を大切にできるから、子どもも大切にできる?!
母親といえども、子ども以外のことにも関心と能力を備えた一人のおとな。
こうした女性たち心の変化は、ライフコースの変化、社会的職業的進出、高学歴化など、社会が大きく変化するなかで、必然かつ当然の変化であり、決して否定的にものではないというのです。
子育ては、「自分」か「子ども」の二者択一ではない。
「自分」を大切にしているから、「子ども」も大切にできる。
子育てには、そんな側面もあるのではないでしょうか。
幼い頃の息子の質問が、私にそんなことを気づかせてくれました。
【参考文献】柏木恵子 2003 家族心理学:社会変動・発達・ジェンダーの視点 東京大学出版会