若い世代の女性に専業主婦願望が高まっています

若い女性の独身女性の間で「夢は専業主婦」という女性が増えています。

電通総研(2010年)の調査によれば、20代女性から40代の約3割が「専業主婦」になりたいと回答しています。

 

昨今、「女性の社会進出」が進み、男性より稼ぐ女性も増えてきています。

それなのに、なぜいま専業主婦?

この一見、時代逆行ともみえる現象については、若い女性の働き続けることへの諦めとも、とうていなれないものへの憧れ・羨望とも解釈されています。

 

仕事と家庭を両立させている先輩女性たちの姿を見ながら、「私は、あんな働き方は無理」。

「仕事をしながら将来結婚をして子どももいる自分」が到底想像できない。

だから「稼ぎのいい男性」をみつけてその人に養ってもらったほうがいいんじゃないか、そう考える女性が増えているというのです。

 

専業主婦志望になったワケ

一方、先に紹介したアンケートでも、「自分は専業主婦になれると思うか」という質問に「YES」と答えているの女性はわずか9%しかいませんでした。

恐ろしく低い数字。みな、現実はわかっているのです。

 

白河桃子さんは、実際に専業主婦志望の女性たちがどのような女性なのかに関心をもち、たくさん会って話を聞きました。

その結果、「専業主婦志望になったワケ」には、次の3つのパターンがあることがわかりました。

 

①     キャリア挫折型: 仕事に疲れてしまった結果の消極的選択

②     現実・ママ追従型: 就職する前から結婚してくれそうな彼氏がいた、あるいは「お母さんが専業主婦で幸せそうだったから」の理由

③     尽くしファンタジー型: “尽くすに値する男性”をみつけて尽くしたい願望が強い

 

「稼ぎのいい男性」ってどのくらい稼ぐ男性?

このように専業主婦を目指す動機にはいくつかありますが、興味深いのは、動機は違っていても彼女たちにはある共通の考え方がみられることです。それは「やっぱり男は家族を養ってなんぼ」というもの。

そして「養ってもらえないなら結婚する意味がない」というそうです。

 

ちなみにここで稼ぎのいい男性って年収どのくらいの男性でしょうか?

「最低でも年収400万円以上」、「できれば600万円以上」です。

 

日本の平均世帯年収は673万円、専業主婦世帯に限ると家庭では約427万円ですから、旦那の稼ぎだけで家族全員が生活するとなったら順当な希望額です。

 

ところが、今の20代、30代の男性で400万円以上稼いでいる人は4人に1人。

600万円以上はわずか100人に1人しかいません。

 

経済成長期に「企業戦士」として仕事に専心してきた彼女たちのお父さんの給料にくらべると、ずいぶん低くなってしまっています。

このように「専業主婦願望」は、昨今の日本の社会的経済的状況から考えると、専業主婦を望んでも実現可能性が低い。低いがゆえの「ないものねだり」だと解釈されています。

 

一生「専業主婦」でいられるための前提

しかし、運よく数少ない稼ぎのいい男性と結婚でき、専業主婦になれたとします。

しかし、一生専業主婦でいられるためには、ある前提が必要です。

その前提とは、パートナーの男性が大黒柱として生涯にわたって安定した収入を得て、家計を支え続けるということです。

 

しかし、現在、労働環境は悪化し、雇用の不安定化も進んでいます。

企業では年功序列や終身雇用の制度が廃止され、成果主義をとる会社も増えてきています。

十分な収入を生涯にわたって稼ぎ続けられる保証はどこにもない時代になってしまいました。

これまた彼女たちのお父さんの頃とは全く違う雇用環境になってしまっています。

 

安心して専業主婦になるには?

安心して専業主婦になる前提条件として、生涯にわたる夫の安定した高収入を上げましたが、実は、もう1つ重要なポイントがあります。

 

それは、離婚する確率が低いという条件です。

夫は死なない、夫はリストラされない、夫は私を見捨てない。

 

もちろん「死なない」には、就業継続が困難になるような「病気にかからない」「怪我をしない」も含まれます。

また、「夫は私を見捨てない」には、真逆の「私が夫を見捨てたくなくなっても、経済的李理由で見捨てられない」ケースなども含まれるでしょう。

 

いずれにしても、この3点がそろって初めて、妻は安心して仕事を辞めることができます。

 

女性たちに向かって、「絶対に働いてください」「働き続けてください」とマスメディアなどで発信している漫画家の西原理恵子さんは、次のように言っています。

「絶対浮気しない男性と絶対つぶれない会社はない」。

 

なにが起こるかわからないのが人生、そして、人の世です。

筆者の母は、専業主婦に憧れて鳥取の田舎から出てきて専業主婦になりましたが、結婚して9年目、筆者が4歳のとき、父が重い病気にかかり退職。

安定したサラリーマン収入を失いました。

当時、女性が働くことが珍しく、困難だった時代です。我が家の生活が困難を極めたことは言うまでもありません。

「女も手に職」「女の子にも教育が大切」と言って私を育てくれた背景には、母の言い知れぬ苦労がありました。

 

「就職列車は一度だけ止まる」の厳しい現実

再就職市場が機能していない日本では、一度正社員を辞めてしまうと、その後「正社員として再就職できる人」は4人にひとり。

生涯年収としては、1億5000万から2億7000万の損失。

 

共働き時代、女性の就業率が上がったと言われていますが、実は65%の女性が非正規。

日本の既婚女性の年収はほぼ90万~110万の範囲に集中しています。

先の白河さんは、「専業主婦制度は“年収100万円女性”を量産する恐ろしい仕掛けだと思うことがあります」と述べています。

 

困らなければいいのですが、子育てを終え、夫と死別・離別した65歳以上の女性の二人にひとりが「相対的貧困」に陥っています。

 

なんだか夢も希望もない暗い話になってしまいました。

しかし、人は、みな「自分に限ってそれはないと」ネガティブなことは起こらないと考える心理的傾向を持っています。

もちろん、それにこしたことありません。

しかし、専業主婦になるのは経済的にリスキーであるという事実を知っておくことは決して無駄にはならないでしょう。

 

【参考文献】

白河桃子 2014 専業主婦になりたい女たち ポプラ新書