昔の母親たち:「女の一生=子育て人生」
「子育てがつらい」といういまどきママの不安や不満。
このような母親たちの不安・不満は、昔の母親たちには考えられないことでした。

ここでひと昔前というのは、20世紀前半、戦前をイメージしてください。

当時は、避妊をしないのが普通でしたので、多産多死。
また、結婚したら子どもを産むのがあたり前でした。
現代のように、子どもを産む産まない、産むとしたら何人産むなど、選択の余地はありませんでした。

洗濯機も冷蔵庫もない、市販の離乳食もない、そんな時代に8人も9人もの子どもを育てるのは容易なことではなかったでしょう。

1947年のデータでは、平均寿命は55歳にも達していませんでした(男性50歳、女性54歳)。
末子が成人するしないかで、天寿をまっとうしていました。
このような社会的環境のなかでは、女性にとって子どもを慈しみ育てることは生きがいともなり、また、周りからも評価、子どもからも感謝されていました。

結婚した女性にとって「女の一生=子育て人生」なのが一般的だったので、その生活に不安や焦りを感じる女性はほとんどいませんでした。

 

“村中みんなで子育て”は母親の負担が少ない

また、この時代は、母親の責任・負担がいまほど大きくありませんでした。
なぜなら日本も都市化を進んでおらず、“村中みんなで子育て”的な育て方が一般的だったからです。
地域のコミュニティの中で、近所のおじさんおばさん、年上のきょうだい地域の子どもたちがみんなであれこれ世話してくれました。
母親一人がそこまでがんばらなくても親戚や近所の人に助けら
れて子どもは自然と育っていきました。

 

社会の大変動が女性の心理・感情も変えた

ところが、現在は、この時代と比べて大きく変わりました。
戦後、日本はきわめて短い間に工業化・情報化を成し遂げ、少子高齢化社会を迎えました。
私たちは、激動ともいえる社会変動の波にもまれています。

女性の寿命は87歳(2016年)で世界トップクラス(ずっと1位でしたが、香港に抜かれ2位)。
わずか70年の間に、30歳も寿命が伸びました。
まさに「人生100年」時代の到来です。

この長い人生のうち、母親として子どもの世話で忙しいのはたかだか10年。
つまり、母親役割を果たす期間が女性の人生のごく一部になってしまいました。
また、ほぼ確実に避妊もできる時代となり、母親となること自体も、選択の1つとなっています。
また、産業構造が変化したことで、女性の就業機会が著しく増大しました。
これらの変化が必然的に母親の心理、女性の感情を変えています。

 

母親になることも選択肢の1つに

こうして、母親である自分だけで満足できない事態が生じています。<「自己チュー」化する女性たち>
結婚する/しない、子どもを産む/産まない、仕事を辞める/辞めない、さまざまな選択肢があるなか、いま子どもを育てている自分。
思っていたよりずっと大変な子育てに日々奮闘、寝る時間もないほど頑張っている自分。
その自分をつい人と比較してして複雑な気持ちになるときもあるでしょう。

子どものいない友人が夫婦だけで自由に行動している姿を見れば羨ましい。
子どもがいても仕事を継続し、キャリアを積んでいる同級生を見ると焦る。
「もっと自分のことがしたい」のに、子どもが起きている間はなにもできない、早く寝てくれればいいのにとイライラする。

スーパーに連れて行くと子どもがお菓子がほしいと言って今日も大泣きする、周りからは非難がましい視線を感じる。
「なんで私がこんなイヤが思いしなければならないの!」と怒りに打ち震える。

「母親失格」と責めるだけでは・・・

こんな母親たちの姿を見て、むかしのお母さんはこんなじゃなかった、もっとやさしかった、と嘆いてみてもはじまりません。
昔の子育てとある意味真逆の環境のなかで、母親ひとりで育てなければならないプレッシャーと戦っているのです。
そんな現代の母親たちを、ただ「母性喪失」「母親失格」といって責めるのはあたりません。

人が時代の変化とともに、社会の変動に伴って、その心理や感情が変わっていくのは必然・当然だからです。

現代の母親がひと昔前の母親と違って孤立無援な状況で子育てをしているか、そのなかで「母親失格」と言われかねない子育てになってしまっているか、その点をきちんと理解するところからスタートしなければいけないと思います。

 

母親によって幅広い個人差

もちろん、今日の母親すべてにこうした不安や不満が強いわけではありません。
環境の違いによって幅広い個人差があります。
では、いったいどのような状況が、母親の子どもに対するプラス・マイナス両面の感情を作り出しているのでしょうか。
この点に関心のある方は<コチラ「子育てを楽しむ秘訣!?;“父親不在”と“子育てのみ”はNG」>をご覧ください。

【参考文献】
柏木恵子 1995 親の発達心理学:今、よい親とはなにか 岩波書店