わずか1割

日本の男は家事をしません。数多くの調査が行われていますが、ほぼ一様に明らかにしていることがあります。
それは、夫がやっているのは家事全体の1割ほどだということです。近年、女性の社会進出は目覚ましい勢いで進んでいます。
しかし、その勢いほどには男性の家庭進出は進んでいないのが現実です。こんなことを言うと「日本の男」とひとくくりにするな~、
という声が聞こえてきそうです。そう、家事をよくする、あるいは家事を専業にしている「専業主夫」たちからです。
また、女性たちからも、こんな声が聞こえてきそうです。「日本の男」って一言でいうけど、早く帰れる男性はやってるんでじゃないの?
それに奥さんが働いていれば、しかたなくやるんじゃないの?「イクメン」とかいう言葉もあるくらいだから、最近はだうぶやるようになっているんじゃない? などなどです。
この記事では、何が男に「家事」をさせるのか? についてみていきたいと思います。

夫は忙しいから育児をしない・できないのか?

「男も女も育児時間を!連絡会」(育時連)は、2003年、「男は忙しいから家事できない?」と題する調査
(東京都小金井市の20~49歳の夫婦:妻795人、夫1192人を対象)を行いました。
その報告書によると、夫の労働時間が長いと育児時間は短くなります。
つまり、「夫の忙しさ」と育児参加への相関関係は認められました。男性が育児に関われない理由として、筆頭に挙げられるのが、「夜遅くまで仕事があるから」「仕事が忙しいから」ですが、確かにその傾向はみられました。しかし、これはあくまで育児についてです。
育児以外の家事については、夫の労働時間との関係はほとんど見られませんでした。

 

妻が働いてるか否かは関係あるのか?

では、妻が働いている場合といない場合は、夫が家事をやる程度と差があるのでしょうか?
答えは、妻が働いている場合、夫は家事をやる傾向が強まります。しかし、それは妻が常勤で働いている場合に限ります。
妻が働いているといって、収入が第3号保険者の要件である130万円以内だったり、短時間労働だったりする夫婦では、夫の分担度は、専業主婦の場合と変わりありませんでした。
パートタイマーで働く既婚女性は、一番幸福度が低いと言われています。
「私だって働いてるのに、全然協力的じゃない」夫の態度も不満の1要因になっているのかもしれません。

 

夫が「男は仕事、女は家事」に反対であるほど家事をやる?

では、夫自身が「男は仕事、女は家事をやるのが望ましい」と思っているかどうかは関係あるのでしょうか?
当然、そういう意見に反対であるほど、夫も家事をやるだろうと予測されます。
ところが、驚くべきことに、夫が「男は仕事、女は家事育児」に賛成でも、妻が常勤なら夫も家事の分担度が高い。
逆に反対でも、妻が常勤でないなら家事の分担度が低いことがわかりました。
ここで注目したいのは、価値観は関係ないこと、夫の自分の価値観に従って家事をやったりやらないわけではないことです。
そして、唯一関係あるのは、妻が常勤で働いているか否かであるということです。妻がフルタイム勤務であるということは、家計への貢献度も高いことを意味します。しかも、妻の年収が高いほど夫は積極的に家事をしています(図1)
経済の力、恐るべしの結果といえるでしょう。

 

世代は関係するのか

最後に世代差について見てみましょう。年々、男性も気楽に家事をやるようになっているのではないという疑問です。
5年ごとに国立社会保障・人口問題研究所が行っている「全国家庭動向調査」によれば、1998年以降、回を重ねるごとに夫の貢献割合は増加しています。
しかし、5年ごとの貢献比率は、11.3%、13.5%、14.5%、14.9%と本当に少しずつ増えていますが、統計的には増えているといえないレベルです。

 

夫の家事分担を説明する決定的な要因はない

以上をまとめると、帰宅時間(仕事の忙しさ)、夫自身の価値観、世代は、夫の家事時間にほとんど関係ないこと、唯一、妻が常勤で働いているか否かだけが、関係していることがわかりました。
しかしながら、調査によっては、妻の仕事の有無も関係ないという調査結果も出ています。
もうそうなると、いずれの要因も決定的でないということになってしまいます。
「何が?」に応える記事にならなかったことを、大変申し訳なく感じます。

 

一番大切なのは女性の意識の変化?

以上のように相変わらず「家庭進出」をしようとしない男性に対して、女性が社会進出するには、男性の「意識改革」が必要である、という議論があります。
でも、筆者は、それ以上に女性の「意識改革」が重要だと考えています。
すなわち、夫があくまで大黒柱の意識から自分も「稼ぐ覚悟」です。「家事や育児を主体的に担う夫」が欲しかったら、女性も「自分が稼ぐことへの覚悟」を持たなければならない。
自分のやりがいや自己実現のための仕事でなく「家計を分担するために働いている」んだという覚悟です。
女性が「一人で家事・育児を抱え込む」ことから自由になりたいなら、男性も「一人で一家を担う」ことから自由にしてあげなくてはならないからです。

筆者も、家事育児をやらない夫にイライラしていた時期もありました。
しかし筆者が逆単身赴任するほどの覚悟と仕事への真剣さを見せたときくらいから、子ども3人のための食事作りは自然とするようになりました。
女性のこの覚悟こそが、夫を「家事や育児を主体的に担う夫」に変える究極の「秘策」なのではないかと思っています。

 

【参考文献】

筒井淳也 2016 結婚と家族のこれから:共働き社会の限界 光文社新書

水無田気流 2015 「居場所」のない男、「時間」のない女 日本経済新聞出版社 2015

白河桃子 2016 「専業主婦」になりたい男たち ポプラ新書