パパの子育て参加 取り組む企業

男性の育児休業の取得率が全国平均で約2%にとどまる中、日本生命保険は3年連続で100%を達成した。3年前、「100%」という目標を掲げ、男性の育休取得を奨励し始めた。男性がもっと育児にかかわることで、育児と仕事を両立する女性の働き方への理解を深めてもらうことを狙った。

以前は、取得率1%ほどだった。突然の数値目標に、支店の営業現場からは不安の声も上がったが、育休の体験談を社内報に載せたり、パソコンから簡単に申請できるようにしたりして取得を促してきた。

従業員7万人のうち男性は約1割。育休の対象者は年間300人前後になる。子どもが生まれたと申請した男性には、育休取得の計画書を人事部が出すよう義務づけしたもので、「生まれたら育休」という流れができたという。子どもの急病での呼び出しに男性が対応することも当たり前になりつつある。

子育てに積極的にかかわろうとする男性が職場で嫌がらせを受ける「パタニティ・ハラスメント」(パタハラ)に悩む人が増える中で、日生では「男性が全員育休を取り、『男も育児をするもの』という共通認識ができたことが、結果的にパタハラを防ぐ仕掛けになった」(人事部輝き推進室の浜口知実室長)という。

ただ、男性は1週間程度の育休取得が多く、数か月以上取る人はまだまだ少ないのが実情。「1週間休んだくらいで」という声もあるが、浜口さんは「取得日数を伸ばすより、100%をずっと続けて会社の風土として定着させることがまずは大事」

「育児=女性」ではない。このスローガンのもと、花王は10年前から男性社員の育児支援に力を入れてきた。従業員約7千人のうち8割を男性が占める。男性社員向けの育児講座を開き、社内パパ・ママが交流する機会をつくるほか、男性社員が父親になると上司にも育児支援制度の取得案内を送る。今年は「パタハラ」に絞った管理職の講習も予定している。

地道な支援で、男性の取得率は約40%と全国平均を大きく上回るようになっただ、今年の社内アンケートでは、育休を希望しているが取れなかった男性が25%いた。育休支援などを担当する座間美郁子部長は「1社だけの取り組みには限界がある。社会全体で変えていかないと」と話す。

 

意識改革へ上司交流

男性が育休を取りづらいと感じる原因は何なのか。三菱UFJリサーチ&コンサルティングが昨年度、約1100人の男性を対象に調査(複数回答)したところ、「育休制度を取得しづらい雰囲気」が26.6%で最も多く、「会社での育休制度が整備されていない」(26.0%)、「残業が多いなど、業務が多忙」(21.2%)が続いた。

職場の雰囲気や制度を変えるには管理職の意識を変えることが欠かせない。部下のワーク・ライフ・バランスに理解がある上司を育てようと、企業の枠を超えた取り組みも出てきた。

「イクボス希望同盟」が19日に主催した管理職交流会もその一つ。部下の仕事と生活の両立を応援する上司像「イクボス」に賛同して加盟する企業は100社以上。うち22社の管理職約120人が一堂に会した。具体的に何をすべきかを少人数に分かれて議論し、それぞれの行動計画を作成。それを自社で実践し、成果を12月に発表する予定だ。参加した男性(47)は「パタハラをなくすには、上司が先入観を持たず、部下の話を聞いてから判断する配慮が大事だと感じた」と話した。

「イクボス」という言葉を広めたNPO法人ファザーリング・ジャパンの安藤哲也代表理事は、マタハラに比べて認知度が低いパタハラを「静かなパタハラ」と表現する。「ハラスメントをしている側も、無意識にやっている場合もある。男同士のあうんの呼吸のような無言のプレッシャーもあり、被害は見えづらい。企業にパタハラに絞った研修をしてほしい」と話している。

 

引用:朝日新聞 「働く」面  2016.10.31